【スポ少疲れた】一秒も試合に出ない我が子のいびきを聞く車内
試合の帰り道、駐車場に車を止めたまま、しばらく動けなかった夜がある。
エンジンを切っても、手がハンドルの上にあった。
トランクにクーラーボックスが積んだままで、氷がまだ残っていた。
声だけ、先に置いておく。
読む気力もない夜は、これだけ聞いてもらえれば十分だと思っている。
拍手していた、そのあいだずっと
グループLINEが鳴るたびに、画面が光った。
「ナイスバッティング!」
動画。スタンプ。また動画。
横で誰かが笑っていた。
「今週も疲れたねー」
その声が、やけに柔らかかった。
拍手をした。
何回目かわからない拍手をした。
手のひらが、何も感じなかった。
グラウンドの端に、パイプ椅子が並んでいた。
ベンチでも応援席でもない、その外側に置かれた椅子に、ユニフォームを着たまま、ずっと座っていた。
試合は動いていた。
声が上がって、誰かが走って、誰かが塁を蹴っていた。
椅子は、動かなかった。
疲れた、と言えている人の横顔が、視界の端にあった。
そこから目を逸らして、グラウンドを見ていた。
綺麗なままだった、そのことが
帰りの車、渋滞にはまった。
赤いテールランプが、ずっとチカチカしていた。
止まって、少し動いて、また止まった。
後部座席から、音がした。
低い、鼻から漏れるような音。
バックミラーに、顔があった。
口が少し開いていた。ユニフォームの首元が、よれていた。
一秒も、出なかった。
綺麗なままだった。
胃の奥が、鉛みたいに沈んでいった。
バックミラーから、目が離せなかった。
駐車場に着いた。エンジンを切った。
クーラーボックスの蓋を開けたら、氷が残っていた。
アスファルトに水がこぼれた。シャリ、と音がした。
水筒を取り出したら、重さが朝と変わっていなかった。
中のお茶を、シンクに流すんだろうと思った。
まだ、駐車場にいたけれど。
三連休。三日間。
朝、何時に起きたっけ。何を作ったっけ。行きの車で、何か話したっけ。
覚えているのは、赤いテールランプと、泥のついていないズボンの膝のところだけだった。
私の時間、全部……
そこで、止まった。
続きは、なかった。
泥のついていないユニフォームを見つめたまま、
息が詰まる夜があるなら。
プロフィールの奥に、
宛先のないLINEを置いてあります。
正解を探さず、ただ吐き出して、
そのまま閉じてしまって構いません。

沖増 茂伸(おきます しげのぶ)
元社会人野球選手。今も、応援席の端にいます。
言葉が出てこなくなる時間や、
判断が止まったまま座っている背中を、何度も見てきました。
このブログには、正解も、意味も、まとめも置いていません。
読んで、閉じて、そのまま残っても、何も起きなくても大丈夫な場所です。
誰にも言えない言葉があるなら。
この先は、誰も見ていない、ただのLINEです。
正解を探す場所でも、何かを変える場所でもありません。
ただ、やり場のない言葉を、そのまま置いていって構いません。
※言葉が出ない時は、今の状態にただ丸をつけるだけのシートが置いてあります。
一人で抱えることに疲れたら。
何も解決しないけれど、ただ口に出して、
飲み込んできた言葉をそのままテーブルに置く時間が、ここにあります。
