【コーチの話聞かない】一人だけ浮いている背中を見つめる応援席
グラウンドの砂埃が、夕暮れの光でオレンジ色になっていた。
きれいだと思った。
一瞬だけ。
笛が鳴った瞬間、膝の上に置いていた手が、気づいたら固まっていた。
あ、また歩き出した。
コーチがまだ話している最中に、一人だけ端の方へ向かっていく背中が見えた。
行く?
私がグラウンドに入って、連れ戻すべき?
声で聴きたい方は、こちら。
みぞおちのあたりが、重くなった。
返事はなかった。自分の中から。
周りの親たちが、グラウンドに目を向けるたびに、
心の中でずっと同じことを叫んでいた。
お願い、見ないで。
声には出なかった。
出せなかった。
笛が一度鳴って。
スッと並んだ。あの子たちが。
「すごいね」って、隣で誰かが笑った。
その声を、どこかで聞いていた。
帰りの車が、一番しんどかった気がする
助手席で、外を眺めていた。
何も気にしていない横顔と、泥だらけのユニフォームが並んでいた。
腹が立った。
理由は言えない。
でも、立った。
腕を掴んで引っ張っていれば、って考えた。
引っ張っていたとして、何が変わったのかは分からないまま、ハンドルを握っていた。
手のひらが、じっとり濡れていた。
気づいていなかった。
どうして普通に、という言葉が、喉のあたりで止まった。
唇を噛んでいた。
声は出なかった。
帰って、シンクに水筒を置いた。
隣に、別の子の水筒があった。きれいな水筒が。
関係ない。
でも、見てしまった。
なんでうちだけ、って思ったまま
一度だけ笛が鳴って、スッと並んだあの子たちが、ただただ憎たらしかった。
口に出したら終わりだと思っていた。
出さなかった。
でも、思った。
ミスをして怒られているあの子を見た瞬間、
少しだけ、息が楽になった。
それに気づいた瞬間、吐き気がした。
続けさせているのは、誰のためなのか。
やめさせたら、やめさせた自分になる。
続けさせても、続けさせている自分のまま。
どっちにしても、自分が決めたことになる。
それが、ずっと嫌なのかもしれない。
いつまでこれが続くのか、分からないまま、
明日のお弁当を考えていた。
助手席の横顔を見て、
ふと湧き上がった真っ黒な感情。
自分の中に留めておくのが息苦しい夜は、
プロフィールの奥に、宛先のない吐き出し口が置いてあります。

沖増 茂伸(おきます しげのぶ)
元社会人野球選手。今も、応援席の端にいます。
言葉が出てこなくなる時間や、
判断が止まったまま座っている背中を、何度も見てきました。
このブログには、正解も、意味も、まとめも置いていません。
読んで、閉じて、そのまま残っても、何も起きなくても大丈夫な場所です。
誰にも言えない言葉があるなら。
この先は、誰も見ていない、ただのLINEです。
正解を探す場所でも、何かを変える場所でもありません。
ただ、やり場のない言葉を、そのまま置いていって構いません。
※言葉が出ない時は、今の状態にただ丸をつけるだけのシートが置いてあります。
一人で抱えることに疲れたら。
何も解決しないけれど、ただ口に出して、
飲み込んできた言葉をそのままテーブルに置く時間が、ここにあります。
