【これでいいの?】 学校は行けないのにユニフォームは洗う母
明日の準備が、最初から頭になかった夜だった。
夜中に気づいた。
洗面所でスパイクを持ったまま、止まってた。
辞めたら、終わりだったかもしれない
声で聞く方が、入ってくるかもしれない。
泥を落としてる。
こすって、流して、また出てくる。
何度目か、分からない。
あの子、今日、笑ってた。
泥だらけで、声出して、笑ってた。
見て、ホッとした。
……した。
でも今、胸の奥が詰まってる。
笑ってたのに。
笑ってたのに、なんで今こうなってるんだろ。
朝、車に乗せた。
無理やり、乗せた。
泣いてたのか、泣いてなかったのか、
私が覚えてないのか、覚えたくないのか、
それも、分からない。
練習が始まったら、笑ってたんだ。
ちゃんと笑ってたんだ、あの子。
……あの笑顔が、嘘なんじゃないかって、思った瞬間があった。
思って、そのまま、飲み込んだ。
どっちか分からないまま
ふと浮かんだ。
ユニフォームを脱いだら、あの子、どこに所属するんだろう。
学校にも行けない子が、チームもなくなったら、
……何者でも、なくなる。
それが怖くて続けさせてるのか。
あの子が怖がってるのか、私が怖がってるのか、
もう、どっちか分からない。
指導者に言われた。「学校は?」って。
いつもの顔で答えた。
震えなかった。
それにちょっと安心して、ちょっと、嫌だった。
練習に来てる間だけ、普通の母親のふりができる。
それが唯一、息ができる時間で。
……それって、誰のための呼吸なんだろ。
選手だったころ、
試合に出てる間だけ、全部が止まる感覚があった。
あれと、似てるのかもしれない。
似てることが、正しいのかどうか、分からないけど。
砦のままで終わる途中
スパイク、まだ洗ってる。
きれいになったかどうか、もう確認してない。
ただ手が動いてる。
玄関に、新品の制服がある。
また、しまい直した。
今日で何回目か。
数えたことない。
数えたら、なんか、数えちゃいけない気がして。
スポーツだけでいいって、誰か言い切ってくれたら。
言い切ってくれたら、私は何を、手放せるんだろう。
手放していいのかも、分からないか。
最後の砦、って思ってる。
自分でそう思ってること、知ってる。
砦が崩れたら、って考えたことある。
考えて、そこで止まる。
毎回、そこで止まる。
もし明日、あの子が「行かない」って言ったら。
……言わないでほしい。
分かってる。
分かってて、言わないでほしいって思ってる夜が、ある。
月謝を払う手が、あの子のためなのか、私の呼吸代なのか。
どっちでもいい、と思い始めてる自分が、いちばん怖い。
スパイク、タオルで拭いた。
玄関に置いた。
明日また、泥になる。
静かな家だ。
あの子は寝てる。
笑ってた顔のまま、寝てるかもしれない。
見に行く気に、なれない。
なれない夜が、ある。
それだけのことが、今夜は、重い。
うまく言えないまま、どこにも置けない夜もあります。
もし、
置かないまま持っているものがあるなら、
静かに残してある場所もあります。
この記事を書いたのはこんな人

沖増 茂伸(おきます しげのぶ)
元社会人野球選手。今も、応援席の端にいます。
言葉が出てこなくなる時間や、判断が止まったまま座っている背中を、何度も見てきました。
このブログでは、正解も、意味も、まとめも置いていません。
読んで、閉じて、そのまま残っても、何も起きなくても大丈夫な場所です。
静かに、判断を止められる場所
今の心の状態を、静かに確認できるシートをLINEでお渡ししています。
それから……もし誰にも言えない本音や、やり場のない言葉があれば、そのLINEにそっと置いていってください。
もし、一人で考え続けるには少し疲れてしまったら、静かに話すためのマンツーマンレッスンの時間があります。
正解を探したり、何かを変えるための場ではありません。
これまで飲み込んできた判断や言葉を、整えずに、そのまま置く時間です。

