【ただの汚れ】無意味な泥の塊を洗う徒労
よその家の泥には 意味がある
…うちのには ない
また 茶色い水が流れていく
水を流しても流しても 洗面台の底がまだ濁っている
泥水を吸って重くなった布を持ち上げる
ぐちゃ という音がする
手の甲が 冷たい水に刺された感触で白くなっている
声だけ 聞いてほしい
あの子がつけてきた泥と うちの子がつけてきた泥
同じ色をしている
同じ茶色なのに
…あの子の親も今頃 こうやって洗っているはずで
うちのは ただの汚れだ
胃の底から 酸っぱいものがせり上がってくる
また布を持ち上げる
また絞る
また茶色い水が落ちていく
これを あとどれだけ続けるんだろう
いっそこのまま布が破れてしまえば
破れたら もう洗えない
洗えなくなったら…
手が 震えている
蛇口の音だけが 暗い洗面台に響いている
布は破れない
もう辞めろ という言葉が 喉の奥でずっとつかえている
飲み込めない
吐き出せない
ただ つかえている
茶色い水がまた流れていく
画面の明かりだけが
顔を白く照らしている
もし 飲み込めないものが喉を塞いでいるなら
プロフィールの奥に
名前のない箱が口を開けている
吐き出されたものは ただそこに積もっていく

沖増 茂伸(おきます しげのぶ)
元社会人野球選手 今も 応援席の端にいます
言葉が出てこなくなる時間や
判断が止まったまま座っている背中を 何度も見てきました
このブログには 正解も 意味も まとめも置いていません
読んで 閉じて そのまま残っても 何も起きなくても大丈夫な場所です
誰にも言えない言葉があるなら
この先は 誰も見ていない ただのLINEです
正解を探す場所でも 何かを変える場所でもありません
ただ やり場のない言葉を そのまま置いていって構いません
一人で抱えることに疲れたら
何も解決しないけれど ただ口に出して
飲み込んできた言葉をそのままテーブルに置く時間が ここにあります
