【あの子ばっかり】スポ少の親の限界と嫉妬

グラウンドの隅で、手を叩いていた。

パチパチ、って。

レギュラーの子が足首を捻ればいいのにと、本気で思いながら。

顔は、たぶん笑ってた。

 

声に出したものが、ここに沈んでいる。

エンジンを切った。

切ったのに、手がまだハンドルの上にあった。

 

スマホを開いたら、天気予報が出てた。

降水確率、ゼロ。

ゼロ、って。

ゼロのまま、明日が来る。

 

雨、降ればいいのに、って思ってた。

一瞬じゃなかった。

ずっと、思ってた。

また、あそこに行くんだ。

砂の上に置く、折り畳み椅子。

 

先輩ママが配るコーヒーは、いつもぬるい。

受け取る手が、もう動いてる。

「ありがとうございます」って声が出てる。

喉のどこから出てるんだろう、あの声。

 

監督が話し始めたら首が動く。

うん、うん、って。

ぜんまいみたいに。

安物の、壊れかけのおもちゃみたいに。

ちゃんと笑えてるのかも、わかんない。

 

夫が監督の横でヘラヘラしてた。

機嫌、取ってた。

あの背中を見てたら、冷たい何かが胃のあたりに落ちてきた。

 

紙コップの縁を爪で削ってた。

気づいたら、ぐるっと一周、ボロボロになってた。

 

削りながら、レギュラーの親の話が聞こえてた。

「あの場面、うちの子が決めたんですよ」

「監督にも褒めてもらって」

うん、って言った。

すごいですね、って言った。

口が、動いた。

 

「ナイスプレー」

叫んだ。

叫ばされた。

叫ぶたびに、喉の奥がザラザラに削れる。

 

グラウンドで声を出し続けると、

ある日から喉が締まったまま戻らなくなる感覚がある。

あれと、似てる。

 

でもあれは自分が選んで叫んでた。

うちの子じゃない、

他の子に向けて叫ぶたびに削れていく喉と、あれは、たぶん違う。

 

うちの子はベンチの端に座ってた。

膝に手を置いて。

 

ふと、浮かんだ。

レギュラーの子が、足首を捻ればいいのに。

ちゃんと捻れ、って。

試合、止まれ、って。

思いながら、手を叩いてた。

パチパチ、って。

顔は笑ってた、はずだ。

 

夫の遺伝子、って考えた。

夫の、あの背中の、遺伝子。

うちの子に、流れてる。

冷めたまま、そう思った。

 

深夜、洗面所で靴下を洗ってた。

泥が染み込んでた。

こすっても、こすっても、残る。

 

こすりながら、思い出した。

明日も、あの砂埃の中に立つんだ。

口の中に入るんだ、砂埃が。

 

試合に出ない子の応援に、

時間を使って、金を使って、神経を使って。

得るものが、ない。

うちには、ない。

他の子の引き立て役を、無償でやらされてる。

やらされてる、んだと思う。

たぶん。

 

終わってない。

終わってないまま、靴下を干した。

 

洗面所の電気、まだついてる。

 

スマホを開いたら、降水確率、ゼロ。

ゼロのまま、明日が来る。

水の音だけ、する。

どこかで、鳴ってる。

 

洗面所の水が、まだ落ちてる。

もし、その黒い泥をどこかに捨てたくなったら。

プロフィールの奥に、

誰も見ないただの箱を置いてある。

そのまま、画面を閉じてもいい。

 

 

 

沖増 茂伸(おきます しげのぶ)

元社会人野球選手。今も、応援席の端にいます。

言葉が出てこなくなる時間や、

判断が止まったまま座っている背中を、何度も見てきました。

このブログには、正解も、意味も、まとめも置いていません。

読んで、閉じて、そのまま残っても、何も起きなくても大丈夫な場所です。

詳しい物語(プロフィール)はこちら

 

 

誰にも言えない言葉があるなら。

この先は、誰も見ていない、ただのLINEです。

正解を探す場所でも、何かを変える場所でもありません。

ただ、やり場のない言葉を、そのまま置いていって構いません。

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一人で抱えることに疲れたら。

何も解決しないけれど、ただ口に出して、

飲み込んできた言葉をそのままテーブルに置く時間が、ここにあります。

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