【なんでうちだけ】試合帰りの車内は息が詰まる
他の子がミスすればいいのにって、願った。
一瞬だけ、じゃなかったかもしれない。
試合が終わった後の駐車場で、そう思った。
声だけ、置いておく。
ガチャって、ドアが閉まった。
笑い声が、遮断された。
泥のついたスパイクを、トランクに投げ込んだ。
活躍した子の泥と、そうじゃない子の泥は、
重さが、違う。
そのことを、誰も言わない。
他の子の親が手を振ってきた。
会釈して、窓を閉めた。
「惜しかったね」って言葉が、背中に当たった。
どうして他の子はいつも打てるのに。
うちのは、また、見逃した。
腹が立ってる。
隣で小さくなってる肩に、腹が立ってる。
慰めるどころか、腹が立ってる。
それが、一番気持ち悪い。
「どうだった?」って聞くのを、喉の奥で飲み込んで、
エンジンをかけた。
ヒーターの風だけが生ぬるくて、
ずっと、黙ってる。
反省会の笑い声が、駐車場の端から聞こえてた。
あっち側には、一生行けない。
そのことが、
…わかってる。
僕は選手だった頃、みぞおちのあたりが重くなる感覚を知ってる。
試合に負けた帰り道じゃなくて、
試合に出られなかった帰り道の、あの重さだ。
後部座席から見える景色が、ずっと同じ速度で流れていく、あの感覚。
赤信号で止まった。
後部座席に、泥だらけの膝が見えた。
お疲れ様って、言えなかった。
ため息が、先に出た。
慰めなきゃ、って思った。
三振した瞬間の残像が、消えなかった。
なんであのボールを追わなかったんだろう。
スポーツ、辞めさせたい。
辞めさせたいのは、
…私の都合だ。
バックミラー越しに、下を向く顔が見える。
他の子はあんなに走ってたのに、
なんであんたは、足が止まるの。
ハンドルを握る手が、じんわり汗ばんで、気持ち悪い。
バックミラーから、目を逸らした。
言葉にすらならない重さを、
どこかに捨てたいと思ったら。
プロフィールの奥に、
誰からの返事もいらない言葉の、
捨て場所を置いてあります。

沖増 茂伸(おきます しげのぶ)
元社会人野球選手。今も、応援席の端にいます。
言葉が出てこなくなる時間や、
判断が止まったまま座っている背中を、何度も見てきました。
このブログには、正解も、意味も、まとめも置いていません。
読んで、閉じて、そのまま残っても、何も起きなくても大丈夫な場所です。
誰にも言えない言葉があるなら。
この先は、誰も見ていない、ただのLINEです。
正解を探す場所でも、何かを変える場所でもありません。
ただ、やり場のない言葉を、そのまま置いていって構いません。
※言葉が出ない時は、今の状態にただ丸をつけるだけのシートが置いてあります。
一人で抱えることに疲れたら。
何も解決しないけれど、ただ口に出して、
飲み込んできた言葉をそのままテーブルに置く時間が、ここにあります。

